現場思考力ゼミ ―中学入試を使って現場思考力を培う―

現場思考力とは、与えられた条件や自分の持っている常識、知識を組み合わせて、何らかの推論や結論を出す力のことをいいます。中学受験の社会入試問題を使って、現場思考力の養成をはかることを目的に、2014年に双方向性を持ったブログとして運営していました。生徒の答案を添削して公開するという取り組みでした。このブログではその問題と解説の一部を保存しています。

11学習院女子H23 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 博物館や資料館の展示室の照明が暗い理由とは?

 

「言われてみれば」と思った方は、すでに正解に近づいていると言えます。逆に、

「えっ?展示室って暗かったっけ」と思った方にとっては、より難しい問題になりそうです。

経験がある方がきっとイメージしやすいことでしょう。皆さんも博物館や資料館に足を運んでくださいね、という思いがこもった問題なのかもしれません。

 

博物館や資料館の展示室に行ったことがなかったとしても、答えられる可能性はもちろんあります。まず、博物館や資料館は何のためにあるのか? 展示室にはどんなものが置かれているのか? そう考えていきましょう。もちろん、作品の鑑賞のためであり、展示室には作品が置かれていますね。

 

では、なぜ暗くするのでしょうか。「照明を暗くすることで落ち着いて鑑賞してほしい」「周りを暗くして作品にスポットライトを浴びせることで、作品を際立たせる」といった、見せるための理由もあるかもしれません。しかし、これはあくまで直接的な理由ではないですし、あまり得点を得られないでしょう。

展示されている作品は、貴重なものです。だからこそ、多くの人が博物館や資料館を訪れますし、ガラス張りされていて、直接手を触れられないようになっていることもありますよね。今回は、そんな貴重な「作品を守る」という視点で書いてほしい問題でした。明るい照明を当て続けることによって、繊細な作品が劣化してしまうこともあるのです。だから太陽光が入らないようになっていますし、照明も暗くしています。

 

皆さんは、「撮影禁止」「フラッシュ禁止」という案内を見たことがありませんか? 著作権保護という理由もあるかもしれませんし、うがった見方をすると「お土産の絵葉書が売れなくなると困るから」という理由もあるかもしれません。しかし、これも照明が暗いことと同じ理由で、作品の保護が主な理由でしょう。特に、フラッシュをたくことによって発せられる強い光の中にある紫外線によって、素材が劣化してしまうそうです。

 

 さあ、せっかくこのような問題を解いたのですから、机の上の勉強だけではなく、実際に博物館や資料館に足を運んで実物を見に行きましょう。上野の東京国立博物館に行けば、雪舟水墨画や土偶などを見られますよ。

 

 

解答

 強い光を当てないようにすることで、展示作品を保護するため。(29字)

 




11学習院女子H23 問題(中学入試で培う現場思考力)

第11回は、学習院女子中の問題です。 

 

博物館や資料館の展示室では、受付やロビーよりも照明を暗くしている。
その理由をわかりやすく説明しなさい。

 

解答期限:7/14(月)午前9時

送信先:松本亘正 (matsumoto1116) on Twitter

字数指定:30字程度

備考:Twitterに返信する形(@matsumoto1116をつける)で投稿してください。もしくは手書きの答案をスマホなどで写真に撮り、それをツイートに貼り付ける形で送っても構いません。その際、できればニックネーム(個人名が特定されないもの)を書いてください。解答を紹介する場合、ニックネームを使用します。アカウント名がニックネームと思われる場合はニックネームの必要はありません。

 

10栄光学園H22 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 緑茶の購入金額が減り、茶飲料の購入金額は増えた理由とは?

 

みなさんは自宅でお茶を飲みますか? おそらく多くの人が飲んでいるでしょう。では、急須で入れたお茶を飲んでいる人は? まだ多いとは思いますが、「わざわざ急須で入れないよ」という若い人も増えてきているでしょう。急須でお茶を入れるというのは日本人としては当たり前のことのように思われてきたのでしょうが、ここ10年ほどで急速にその伝統は薄れてしまっているのかもしれません。

 

 さて、今回の問題。「1世帯あたりの年間の茶類の購入金額の内わけ」というグラフが与えられていて、どうして変化が起こったのかを説明させる問題です。茶飲料の購入金額の割合がたった7年で1.5倍にもなっていて、その分緑茶の購入金額が減っています。まず、このような変化を読み取ることができますが、表に書かれていることだけ書いてもあまり評価される答案にはなりません。「なぜ?」「どうして?」というところまで踏み込んでいかなければならないのです。

 

常識的な問題なので、ノーヒントで考えついてほしい問題ではありますが、分からなくても問題文にヒントが書かれています。

 

 「販売されている製品のすがたや特徴」「販売方法」を考えるとよいのです。

  

 まず、製品のすがたや特徴。みなさんは、茶飲料を買う、もしくは飲むとき、どのような形のものを買いますか? 缶という人もいるでしょうが、ペットボトルと答える人が多いのではないでしょうか。ペットボトルが普及したことで、茶飲料もペットボトルで買ったり飲んだりする人が増えたと考えられます。

 

 では、次に販売方法です。どこで買いますか? 百貨店やスーパーでも購入できますが、購入金額が急激に増えているということは、昔からある百貨店やスーパーはそれほど影響が大きいわけではなさそうですよね。自動販売機で購入する人も多いでしょうが、これも昔からあるものです。ということは?

 

 コンビニエンスストアでしょう。今や首都圏では歩けばすぐにコンビニが見つかるくらいですし、24時間営業の店が多いので、いつでも気軽に購入できます。それに地方の店舗数も増えています。今や日本の生活に根付いたコンビニの影響力は計り知れません。

 

 以上で解答をつくることができますね。紅茶やその他(ウーロン茶など)はそれほど変動が大きいわけではありませんし、字数が限られているのであれば触れなくてよいでしょう。

 

 ちなみにこれだけ茶飲料が増えた理由に、核家族化が進んだことや、一人暮らしの若者が増えたことも関係していると思います。両親と子どもだけという核家族は、祖父母と暮らしている家庭と比べると緑茶を購入して急須でお茶を入れなくなるでしょうし、ましてや一人暮らしの若者ならばお茶を入れる時間がもったいないという人も多いでしょうね。時間がもったいないだけでなく、入れた後のゴミの始末が面倒だと考える人もいるはずです。濡れた茶葉は生ゴミとして処理しなければなりませんが、ペットボトルならば専用の回収ボックスがあちこちにありますから、気軽に捨てられます。 

 

解答

 

茶葉の購入金額が減り、茶飲料の購入金額が増えている理由として、ペットボトルの普及が考えられる。茶葉の場合は入れるための道具が必要で、入れた後は生ゴミとなるため手間や時間がかかる。一方、ペットボトル入りであれば持ち運びもゴミの始末も容易であり、コンビニエンスストアなどでいつでも手軽に買うことができる。(150字)

 

10栄光学園H22 問題(中学入試で培う現場思考力)

第10回は、栄光学園中の問題です。 

 

最近の1世帯あたり年間の茶類の購入金額をみると、下のグラフのように、合計額では大きな変化はありません。しかし内わけをみると、少しずつ変化をしています。その理由を販売されている製品のすがたや特徴、また販売方法などから考えて説明しなさい。

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09都立小石川H25 解答解説

外国人労働者を受け入れる?

 

これまで何度も話題となり、実現しなかった外国人労働者の大量受け入れ。しかし、団塊の世代が退職し、働く人が減少していることや、少子高齢化への対策として、いわゆる移民の大量受け入れが本格的に検討されているそうです。日本はすでに人口減少社会に入っています。合計特殊出生率は1.43ですので、人口を維持できる2.07からはほど遠い状態です。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0400T_U4A600C1000000/

http://resemom.jp/article/img/2014/06/05/18816/75996.html

 

人口の減少が経済や社会に与える影響は深刻であり、実際に地方ではその影響が大きく出ています(都市部に住んでいるとあまり感じないものですが)。

http://diamond.jp/category/s-nipponnomirai

 

まずは女性の社会進出とセットにして、女性の社会進出を助ける職種をまず開放するのではないかと思っていますが、いずれにせよ賛否両論あるテーマです。メリットとデメリットを考えてみてください。

 

さて、今回の問題。このような外国人労働者を受け入れる話をもとに書いていくこともできるでしょう。どのように日本を発展させていくのかが問われています、安価な労働力が増えること、日本の技術を世界に発信しやすくなるといった経済的な発展を書いてもいいでしょうし、中学入試ということを考えれば現実的な(経済的な)メリットばかりではなく、異文化が入ってくることによるメリットを書いてもいいと思います。もちろん、外国人労働者をテーマにしない記述も考えられるでしょう。外国人観光客が日本にやってくることによる日本の発展という視点で書くこともできます。

 

【解答】

異なる文化や習慣を持つ外国の人々を受け入れることによって、従来の日本にはなかった発想や考え方を社会に取り入れることができる。また、ものづくりの技術の高さや都市の治安の良さなどの、日本の良いところを世界にアピールすることができる。その結果、よりグローバリゼーションの進んだ社会へと発展していくことができると考える。(156字)

09都立小石川H25 問題(中学入試で培う現場思考力)

第9回は、都立小石川中の問題です。 

 

ときこさん:日本にも外国から多くの人がやってくるようになったので、世界を身近

      に感じるようになりました。

先   生:そうですね。多くの国からの人を迎えたことで、日本も大きく変わって

      きました。これからもより良い社会になるように変えていかなければい

      けませんね。

 

 

 日本に外国から人がやってくることを生かして、日本をどのように発展させることができるか、あなたの考えを書きなさい。

 

(実際の入試問題は160字以内でしたが、140字程度とします)

 

08麻布H24 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 貧富の差をつけてはならないのに、お金の力に左右されてしまっていることって?

 

 国民皆保険制度は日本の誇るべき制度の一つでしょう。所得や支払う保険料にかかわらず健康保険によって同じ医療を同じ値段で受けられるのです。

もちろん、財源不足、財政再建の問題から社会保障制度も今の水準をそのまま保ちながら存続していくことは難しいかもしれませんが、アメリカのように収入によって受けられる医療によって大きな差がついてしまうようなことにはならないと考えられています。

 

さて、今回の問題。健康保険のように貧富によって差をつけてはならないにもかかわらず、現実にはお金の力に左右されてしまっていることの具体例をあげて説明するというものです。実は実際の入試問題では問題文に大きなヒントがありました。「医療や福祉、教育、政治」という言葉。つまり、健康保険とは直接関係のない教育や政治をあげていけば良かったのです。問題文の中にヒントが入っていることはよくあります。

 

では、解説を続けましょう。

 

まず教育について。格差の固定化という言葉を聞いたことがありますか?親の所得が高く経済的に恵まれた家庭に生まれた子どもは、受けられる教育の質が高くなりやすいのですが、親の所得が低く経済的に恵まれていない家庭に生まれた子どもだと、教育にかけられる金額が少なくなるため、受けられる教育の質が低くなりやすいのです。そうなると、貧しい家庭で育つと高い学歴を身につけることが難しく、結果として就くことができる職業も限られることが多くなります。もちろん例外もあるでしょうが、世代を超えて貧富の差が固定化されやすいのは事実です。本来、教育の機会は平等であるはずなのですが、公教育では足りないとなると、お金によって受けられる教育の質が変わってきてしまうのです。中学受験やそれに向けた勉強も、お金に左右される部分がありますよね。学校の先生もジレンマを抱えていて、それが問題につながったのかもしれません。

 

 では、政治の場合はどうでしょうか。世襲議員という言葉を聞いたことがあれば、楽に解けそうですね。政治家になるには、たくさんのお金がかかります。一度の選挙に数千万円かかるそうですので、お金がないと立候補すら大変です。お金をたくさん使える候補がたくさん宣伝もできますから、有利になりますよね。しかも親が国会議員などの政治家であればそのまま支持者を受け継ぐことができて、さらに有利です。親が政治家であってその地盤を引き継いで政治家になった場合、世襲議員と呼ばれるのですが、そういう人はかなりいます。安倍総理世襲議員の一人です。世襲議員だからダメだとか、能力がないというわけではありません。中には優秀な人もたくさんいるでしょう。しかし、国民の代表として選ばれる政治家になりやすいかどうかが、お金の力で変わってしまうという現状もまた事実です。

 

 このような現状に一石を投じたいとまで思ったかどうか分かりませんが、小学生にも知っておいてほしい、考えられるようになってほしい、そういう気持ちを作問者は持っていたのでしょうね。

 

解答

【教育】

経済的に豊かな家庭では教育費に高い金額を充てられるため、子どもはより質の高い教育を受けることができ、高い学歴を身に付け、高い収入が得られる職業に就く機会が多くなる。一方、所得の低い家庭の子どもは受けられる教育の質が低くなりがちで、学歴の面で不利となり、職業も限定されやすい。親の経済力によって子の教育の質が左右された結果、格差が世代を超えて固定化し、さらに拡大していくという問題が生じる。(194字) 

【政治】

選挙で出馬するためには多額の資金が必要であるため、意欲や能力が高かったとしても、経済力が低く資金が準備できなければ立候補すらできない。一方、豊富な資金があれば少なくとも立候補はできるので、経済力の差によって政治家になる機会の有無が決まる。さらに、親が政治家であれば資金だけでなく支持者なども引き継ぐことができるため、世襲議員が増える。その結果、国民の代表者としての国会議員の性質が担保されなくなる。(199字)

福祉

温泉や娯楽施設などもあるような高額の老人ホームに入居する高齢者がいる一方で、老人ホームに入居する経済力がなく、充分な介護も受けられないような高齢者も存在する。経済的に豊かな高齢者と、そうでない高齢者との間には受けられる介護やサービスの面で大きな差があり、健康で文化的な最低限度の生活が保障されない老後を送る人もいることが、現実に独居老人や孤独死などの問題につながっている。(186字)