現場思考力ゼミ ―中学入試を使って現場思考力を培う―

現場思考力とは、与えられた条件や自分の持っている常識、知識を組み合わせて、何らかの推論や結論を出す力のことをいいます。中学受験の社会入試問題を使って、現場思考力の養成をはかることを目的に、2014年に双方向性を持ったブログとして運営していました。生徒の答案を添削して公開するという取り組みでした。このブログではその問題と解説の一部を保存しています。

08麻布H24 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 貧富の差をつけてはならないのに、お金の力に左右されてしまっていることって?

 

 国民皆保険制度は日本の誇るべき制度の一つでしょう。所得や支払う保険料にかかわらず健康保険によって同じ医療を同じ値段で受けられるのです。

もちろん、財源不足、財政再建の問題から社会保障制度も今の水準をそのまま保ちながら存続していくことは難しいかもしれませんが、アメリカのように収入によって受けられる医療によって大きな差がついてしまうようなことにはならないと考えられています。

 

さて、今回の問題。健康保険のように貧富によって差をつけてはならないにもかかわらず、現実にはお金の力に左右されてしまっていることの具体例をあげて説明するというものです。実は実際の入試問題では問題文に大きなヒントがありました。「医療や福祉、教育、政治」という言葉。つまり、健康保険とは直接関係のない教育や政治をあげていけば良かったのです。問題文の中にヒントが入っていることはよくあります。

 

では、解説を続けましょう。

 

まず教育について。格差の固定化という言葉を聞いたことがありますか?親の所得が高く経済的に恵まれた家庭に生まれた子どもは、受けられる教育の質が高くなりやすいのですが、親の所得が低く経済的に恵まれていない家庭に生まれた子どもだと、教育にかけられる金額が少なくなるため、受けられる教育の質が低くなりやすいのです。そうなると、貧しい家庭で育つと高い学歴を身につけることが難しく、結果として就くことができる職業も限られることが多くなります。もちろん例外もあるでしょうが、世代を超えて貧富の差が固定化されやすいのは事実です。本来、教育の機会は平等であるはずなのですが、公教育では足りないとなると、お金によって受けられる教育の質が変わってきてしまうのです。中学受験やそれに向けた勉強も、お金に左右される部分がありますよね。学校の先生もジレンマを抱えていて、それが問題につながったのかもしれません。

 

 では、政治の場合はどうでしょうか。世襲議員という言葉を聞いたことがあれば、楽に解けそうですね。政治家になるには、たくさんのお金がかかります。一度の選挙に数千万円かかるそうですので、お金がないと立候補すら大変です。お金をたくさん使える候補がたくさん宣伝もできますから、有利になりますよね。しかも親が国会議員などの政治家であればそのまま支持者を受け継ぐことができて、さらに有利です。親が政治家であってその地盤を引き継いで政治家になった場合、世襲議員と呼ばれるのですが、そういう人はかなりいます。安倍総理世襲議員の一人です。世襲議員だからダメだとか、能力がないというわけではありません。中には優秀な人もたくさんいるでしょう。しかし、国民の代表として選ばれる政治家になりやすいかどうかが、お金の力で変わってしまうという現状もまた事実です。

 

 このような現状に一石を投じたいとまで思ったかどうか分かりませんが、小学生にも知っておいてほしい、考えられるようになってほしい、そういう気持ちを作問者は持っていたのでしょうね。

 

解答

【教育】

経済的に豊かな家庭では教育費に高い金額を充てられるため、子どもはより質の高い教育を受けることができ、高い学歴を身に付け、高い収入が得られる職業に就く機会が多くなる。一方、所得の低い家庭の子どもは受けられる教育の質が低くなりがちで、学歴の面で不利となり、職業も限定されやすい。親の経済力によって子の教育の質が左右された結果、格差が世代を超えて固定化し、さらに拡大していくという問題が生じる。(194字) 

【政治】

選挙で出馬するためには多額の資金が必要であるため、意欲や能力が高かったとしても、経済力が低く資金が準備できなければ立候補すらできない。一方、豊富な資金があれば少なくとも立候補はできるので、経済力の差によって政治家になる機会の有無が決まる。さらに、親が政治家であれば資金だけでなく支持者なども引き継ぐことができるため、世襲議員が増える。その結果、国民の代表者としての国会議員の性質が担保されなくなる。(199字)

福祉

温泉や娯楽施設などもあるような高額の老人ホームに入居する高齢者がいる一方で、老人ホームに入居する経済力がなく、充分な介護も受けられないような高齢者も存在する。経済的に豊かな高齢者と、そうでない高齢者との間には受けられる介護やサービスの面で大きな差があり、健康で文化的な最低限度の生活が保障されない老後を送る人もいることが、現実に独居老人や孤独死などの問題につながっている。(186字)