現場思考力ゼミ ―中学入試を使って現場思考力を培う―

現場思考力とは、与えられた条件や自分の持っている常識、知識を組み合わせて、何らかの推論や結論を出す力のことをいいます。中学受験の社会入試問題を使って、現場思考力の養成をはかることを目的に、2014年に双方向性を持ったブログとして運営していました。生徒の答案を添削して公開するという取り組みでした。このブログではその問題と解説の一部を保存しています。

18武蔵H26 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

ヒートアイランド化の理由を説明させる問題

 

2013年は四万十市が最高気温41.0℃となり、これまでの多治見市(岐阜県)・熊谷市(埼玉県)の40.9℃を更新しました。1日の最高気温が35℃以上の日を猛暑日と言いますが、そもそも昔はこういう言葉を聞かなかったのではないでしょうか。というのも、猛暑日という言葉は2007年に気象庁が用語の改正を行ったことで定義された言葉なのです。この猛暑日、意外と沖縄ではありません。でも、東京だとしょっちゅう起こる。なぜ都心部ではうだるような暑さが続くのか、何となく知っていそうだけれどもはっきりと理由は説明できない、という人もいるでしょう。今回はそのような問題です。

 

 知識問題とも言えますが、身近な出来事に対して「なぜ?」と疑問を持ってほしいという出題意図を感じます。知らなくても考えていけば、ある程度の解答は書けるでしょう。

 

 今回の問題は「東京でヒートアイランド化が進んでいった原因」を考えさせるもので、ヒートアイランドとは「都市の中心部の気温が、周辺地域に比べて目立って高くなること」と書かれています。つまり、東京特有の理由、都市だからこそ起こりえる答案が求められています。

 

 たとえば、海から離れている盆地では、海風の影響を受けにくいため、昼に温度が上がりやすく夜に温度が下がりやすくなります。だから、山梨県甲府盆地では40℃を超えるような気温になることもあります。もともと40.8℃が日本の最高気温だったとき、その気温は山形市で観測されたものだったのです。

 しかし、東京特有、都市特有ということだと、今回はその線で答案をつくるべきではありません。やはり都市化の影響を中心に考えていくべきでしょう。

 

 まず、アスファルトやコンクリートの増加。土や草があるところよりアスファルトがあるところの方が暑そうなイメージがありますよね、コンクリートは暖まりやすく冷えにくいため気温上昇をもたらしやすくなります。昼に吸収した熱を夜放出するので、夜間の気温上昇にもつながるそうです。ヒートアイランドは何も昼に限った話ではありません。

 他にも人工的に排出される熱の増加もあるでしょう。人口が集中する地域では様々な活動で熱を出す量が増えます。クーラーの利用による熱の放出などが考えられますね。

 

 実は最後の理由は前の2つほど昼間のヒートアイランド化には影響してないそうなのですが、そこまで知らなくても考えられることを書けばある程度は評価してもらえるでしょう。

 

 なお、気象庁HPではヒートアイランド現象の原因について書かれています。

http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/07/qa.html

関連するページでは、ヒートアイランド現象の影響や、ヒートアイランド現象を緩和する方法も書かれています。せっかくですからこの機会に読んでみてはいかがでしょうか。 

 

解答

1950年代以降は高度経済成長期となり、地方からの人口が流入し、東京ではビルの建築や道路の整備が進むとともに緑が減っていった。さらに1964年の東京オリンピック開催に合わせてこの傾向は進み、都市部の道路はほぼコンクリートとなり、太陽熱を蓄えやすくなっていった。そして1980年代のバブル景気では高層ビルやマンションの建築ラッシュとなった。また、自動車の普及による排気ガス、エアコンの普及にともなう室外機の排熱の量も増えていった。(205字)

 

18武蔵H26 問題(中学入試で培う現場思考力)

第18回は、武蔵中の問題です。 

  

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グラフ2を見ると、東京の気温が1950年代以降、急激に上昇していることが分かります。これはヒートアイランド化が進んでいったためと考えられています。東京でヒートアイランド化が進んでいった原因として、どのようなことが考えられますか。
ヒートアイランド:都市の中心部の気温が、周辺地域に比べて目立って高くなること。

 

 

17駒場東邦H20 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 日本が米の輸入制限を緩めた理由は?

 

 もし授業で「どうして日本は米の輸入制限を緩めたと思う?」と聞くと、「冷害で米不足になったから」という答えが返ってくるかもしれません。確かに1993年の冷害による不作から米不足になり米の緊急輸入、そして米の部分開放へとつながっていきました。しかし、単純に米不足になったからではありません。もっと複合的な問題があるのです。

 

 今回は、2つの表からそのことを読みとってほしいという問題です。「日本の貿易の特色を挙げながら」とあるので、原料を輸入して日本で製品をつくって外国に輸出するという加工貿易をふまえて答えることが求められます。表3からそのような日本の貿易形態を読み取れます。原料や燃料の輸入が多く、工業品の輸出が多くなっていますね。それでは、表2から何を読み取り、解答に盛り込めばよいのでしょう。表2からは日本の貿易黒字が大きくなっていることが読み取れます。輸出額や輸入額よりも多くなっていますね。

 

 表から使える内容は取り出すことができました。では、なぜ日本が米の輸入制限を緩めたのかを考えましょう。日本は黒字が多い、簡単にいうともうけているわけです。アメリカなど貿易赤字となっている国からすると面白くありませんよね。日本ばっかりがもうけている、と。「君はたくさん工業品を売ってもうけているのだから、自分たちがつくった食料品も輸入してくれよ」と言いたくなると思いませんか? それで1991年の牛肉・オレンジの輸入自由化、そしてウルグアイラウンドによる米の部分開放につながっていったのです。一言で言ってしまえば「外圧」です。

 

 最近ではTPP(環太平洋経済連携協定)に参加するのか、交渉のテーブルにつくのかで賛成・反対と意見が分かれています。関税が完全に撤廃されたとしたら農家は大きな打撃を受けてしまいます。高い関税をかける保護貿易から自由貿易に変わっていけば、安い外国産の野菜や果物などがもっと入ってきて、価格競争に勝つのは難しいでしょう。逆に日本の作物を外国に売っていけばよいという意見もありますが、もともと集約農業で作物の価格も高いので、簡単なことではありません。では、農家を守るために保護貿易を続ければいいじゃないかと思うかもしれません。これにも問題があります。工業製品に高い関税をかけられてしまっては輸出が難しくなりますし、どの国も自国の利益だけを考えて保護貿易を行えば、国同士の関係は悪化します。

 

 全員にとってハッピーな選択というものはそうそうありません。誰かが利益を得れば誰かが損をする。自国の利益だけを皆が追求すると関係悪化によって経済が冷え込むなどでかえって不利益をこうむってしまう。戦争にまで発展することだってあるでしょう。国内の利害関係を調整したり、外国とのかかわりを考えながら国益を守るというのが政府の役割ということになるわけです。

 

 

解答例

 日本は原料を輸入して製品を作って輸出するという加工貿易を行ってきた。また、農産物の輸入品に高い関税をかけて農家を守ってきたため、貿易黒字が大きくなっていた。貿易摩擦も起こる中、アメリカなどから輸入自由化を求められており、その要求に応えたから。(121字)

 




17駒場東邦H20 問題(中学入試で培う現場思考力)

第17回は、駒場東邦中の問題より出題です。 

 

日本が米の輸入制限を緩めたのはなぜですか。下の表2・表3からわかる日本の貿易の特色を挙げながら、説明しなさい。

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16頌栄女子学院H26 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 バングラディシュの硬貨を日本の造幣局が受注した理由とは?

 

 20144月に消費税が8%になりました。これまでが5%でしたから、計算が煩雑になってしまいましたね。しかも商品表示に税抜きと税込みが混在しているために分かりにくくなっています。

 1円玉を利用する頻度が上がったことを実感している人もいるのではないでしょうか?私も108円の買い物をすると1円玉が8枚もお財布に入っていないため110円を出してお釣りをもらう経験を何度もしました。

 消費税の増税は、少子高齢化が進行する中で社会保障関係費の増大が問題になっているとか、消費税は低所得者層にとって負担が重いとか、増税による景気の落ち込みが心配されるとか、そういう社会全体のあり方に関わるような話です。中学入試でも、消費税増税低所得者層にとって重い負担であることを書かせる問題は出題されています。

 一方で、システムの問題も取りざたされました。JRなどの公共交通機関の券売機は10円単位となっており、増税分をきちんと反映させることが難しくなったのです。自動販売機も同じですね。120円の飲み物が130円に値上がりしている販売機を多く見かけますが、3%なら本来は3円か4円の値上がりで済むはずです。そこでJRやバス、私鉄各社はICカードを利用している場合の値段と、券売機で買う場合の値段が異なるという二重設定を行うことにしました。ICカードだと1円単位で徴収できるからです。

 

 さて、今回の問題。1円玉についての問題です。1円玉の発行枚数が減っていることは、これまで開智で出題されるなど、中学受験の中でも出されたことがありました。これはICカードの普及が影響しています。公共交通機関だけではなく、今ではパスモやスイカといったICカードで買い物ができるお店も増えてきているのです。

 

 今回はバングラディシュの硬貨発行を受注したという、一見「そんなこと知らないよ」と思いそうな問題でした。しかし、与えられている2つの資料をもとに答えを導き出すことができます。

 まず、1円玉の発行枚数について。3%の消費税を導入した1989年頃は1円玉の発行枚数は多くなっていますが、その後減少が続いています。そうすると造幣局の機械を動かすことも減ります。せっかく硬貨をつくることができるのにもったいないですよね。

 そして、ICカードについて。今回の消費税増税にあたっては1円玉の需要が高まったでしょうが、そもそもICカードが普及しているから1円玉の利用割合が減ってきていることを読み取ることができます。

 紙幣の印刷は日本銀行、貨幣の印刷は造幣局ということは意外と知られていませんが、バングラディシュの硬貨も請け負っていたのですね。ちょっと驚きました。しかし、知らないことでも資料を使って考えていくことで答えを出すことができるのです。そこに、消費税導入の年度という知識があればさらに充実した解答をつくることができるでしょう。

 

解答 

 1989年の消費税導入に伴い1円硬貨の製造枚数は増えたが、多くの硬貨を持ち歩きたくない人が増えたことや、運賃の安くなるICカードの普及により、近年は製造枚数が大幅に減少したので、造幣設備を有効に活用するため。(101字)

16頌栄女子学院H26 問題(中学入試で培う現場思考力)

第16回は、頌栄女子学院中の問題です。 

 

紙幣を発行するのが日本銀行であるのに対し、硬貨は造幣局で製造、発行されています。2012年11月13日、造幣局バングラデシュ中央銀行から同国の2タカ硬貨(以下の<図>)、5億枚の製造を受注したと発表しました。記念硬貨を除いて、外国の硬貨を日本で製造するのは戦後初めてです。なぜ日本の造幣局が外国の硬貨を製造することになったのでしょうか。<資料1>~<資料2>の情報を読み取って説明しなさい。

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15成蹊H24 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

精神病患者数と戦争の関連性を問う骨太な問題

兵士に与えた影響の原因が、[資料2]で具体的に示されています。平常時には年に20日あった休暇(それも相当少ないと思いますが…)が、戦時には1日もないのです。戦争をしているのですから、兵士たちは当然肉体的にも精神的にも疲弊しているはずです。

考えてもみてください。皆さんがもし、1日の休みもなく勉強し続けなければならないとしたらどうでしょうか? どれだけやっても1日の休みすらない、しかもその苦行がいつ終わるかもわからない、そう思っただけでも目の前が暗くなりませんか?

 

ましてや、戦場で戦い続けるということは、自分の命が危険にさらされる上に、人の死を目の当たりにしたり、さらには自分が人を殺す立場になったりするということです。また、軍隊では厳しい規律や上下関係で締め付けられることも多かったようです。映画やドラマでそのようなシーンを見たことのある人もいると思います。

 

そういう過酷な状況で兵士たちが抱える肉体的・精神的なストレスは想像を絶するものであったと考えられます。結果として、精神病を患う兵士が増えていったのです。

 

[資料3]では、戦争が進むにつれて精神病患者の割合がどんどん増えていったことが読み取れますね。特に、太平洋戦争が始まった1941年からは一年ごとにほぼ2倍ずつに増えていっています。戦争が激しくなった分、それだけ兵士にかかるストレスが深刻なものになっていったということでしょう。

 

そしてもう一つ気づいてほしいのは、「戦病患者数」の移り変わりと年号の関係です。太平洋戦争は最初こそ日本軍が勝っていたものの、1942年6月のミッドウェー海戦で敗れてからは敗退が続いたことはみなさん知っていると思います。

にもかかわらず、1941年以降の戦病者の数がそれまでに比べて少ないですね。戦争が激しくなって戦死者が増えたとも考えられますが、この数字からは、兵士たちが戦場で病気にかかっても日本には送り返されることなく、そのまま戦場にとどまっていたと考えることができます。 

 

データとして示された数字と自分の知っている知識とを照らし合わせて、「太平洋戦争が始まっているのになぜ戦病者数が減ったのか?」という疑問を持つことが求められる問題でした。

 

 解答

 

兵士は休暇を取れず心身に大きなストレスを抱えていたため、太平洋戦争が始まり戦況が悪化していくにつれて精神病を患う兵士が大幅に増えた。また、戦地で病気にかかっても日本に送り返される兵士が少なくなった。(99字)