現場思考力ゼミ ―中学入試を使って現場思考力を培う―

現場思考力とは、与えられた条件や自分の持っている常識、知識を組み合わせて、何らかの推論や結論を出す力のことをいいます。中学受験の社会入試問題を使って、現場思考力の養成をはかることを目的に、2014年に双方向性を持ったブログとして運営していました。生徒の答案を添削して公開するという取り組みでした。このブログではその問題と解説の一部を保存しています。

17駒場東邦H20 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 日本が米の輸入制限を緩めた理由は?

 

 もし授業で「どうして日本は米の輸入制限を緩めたと思う?」と聞くと、「冷害で米不足になったから」という答えが返ってくるかもしれません。確かに1993年の冷害による不作から米不足になり米の緊急輸入、そして米の部分開放へとつながっていきました。しかし、単純に米不足になったからではありません。もっと複合的な問題があるのです。

 

 今回は、2つの表からそのことを読みとってほしいという問題です。「日本の貿易の特色を挙げながら」とあるので、原料を輸入して日本で製品をつくって外国に輸出するという加工貿易をふまえて答えることが求められます。表3からそのような日本の貿易形態を読み取れます。原料や燃料の輸入が多く、工業品の輸出が多くなっていますね。それでは、表2から何を読み取り、解答に盛り込めばよいのでしょう。表2からは日本の貿易黒字が大きくなっていることが読み取れます。輸出額や輸入額よりも多くなっていますね。

 

 表から使える内容は取り出すことができました。では、なぜ日本が米の輸入制限を緩めたのかを考えましょう。日本は黒字が多い、簡単にいうともうけているわけです。アメリカなど貿易赤字となっている国からすると面白くありませんよね。日本ばっかりがもうけている、と。「君はたくさん工業品を売ってもうけているのだから、自分たちがつくった食料品も輸入してくれよ」と言いたくなると思いませんか? それで1991年の牛肉・オレンジの輸入自由化、そしてウルグアイラウンドによる米の部分開放につながっていったのです。一言で言ってしまえば「外圧」です。

 

 最近ではTPP(環太平洋経済連携協定)に参加するのか、交渉のテーブルにつくのかで賛成・反対と意見が分かれています。関税が完全に撤廃されたとしたら農家は大きな打撃を受けてしまいます。高い関税をかける保護貿易から自由貿易に変わっていけば、安い外国産の野菜や果物などがもっと入ってきて、価格競争に勝つのは難しいでしょう。逆に日本の作物を外国に売っていけばよいという意見もありますが、もともと集約農業で作物の価格も高いので、簡単なことではありません。では、農家を守るために保護貿易を続ければいいじゃないかと思うかもしれません。これにも問題があります。工業製品に高い関税をかけられてしまっては輸出が難しくなりますし、どの国も自国の利益だけを考えて保護貿易を行えば、国同士の関係は悪化します。

 

 全員にとってハッピーな選択というものはそうそうありません。誰かが利益を得れば誰かが損をする。自国の利益だけを皆が追求すると関係悪化によって経済が冷え込むなどでかえって不利益をこうむってしまう。戦争にまで発展することだってあるでしょう。国内の利害関係を調整したり、外国とのかかわりを考えながら国益を守るというのが政府の役割ということになるわけです。

 

 

解答例

 日本は原料を輸入して製品を作って輸出するという加工貿易を行ってきた。また、農産物の輸入品に高い関税をかけて農家を守ってきたため、貿易黒字が大きくなっていた。貿易摩擦も起こる中、アメリカなどから輸入自由化を求められており、その要求に応えたから。(121字)