現場思考力ゼミ ―中学入試を使って現場思考力を培う―

現場思考力とは、与えられた条件や自分の持っている常識、知識を組み合わせて、何らかの推論や結論を出す力のことをいいます。中学受験の社会入試問題を使って、現場思考力の養成をはかることを目的に、2014年に双方向性を持ったブログとして運営していました。生徒の答案を添削して公開するという取り組みでした。このブログではその問題と解説の一部を保存しています。

16頌栄女子学院H26 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 バングラディシュの硬貨を日本の造幣局が受注した理由とは?

 

 20144月に消費税が8%になりました。これまでが5%でしたから、計算が煩雑になってしまいましたね。しかも商品表示に税抜きと税込みが混在しているために分かりにくくなっています。

 1円玉を利用する頻度が上がったことを実感している人もいるのではないでしょうか?私も108円の買い物をすると1円玉が8枚もお財布に入っていないため110円を出してお釣りをもらう経験を何度もしました。

 消費税の増税は、少子高齢化が進行する中で社会保障関係費の増大が問題になっているとか、消費税は低所得者層にとって負担が重いとか、増税による景気の落ち込みが心配されるとか、そういう社会全体のあり方に関わるような話です。中学入試でも、消費税増税低所得者層にとって重い負担であることを書かせる問題は出題されています。

 一方で、システムの問題も取りざたされました。JRなどの公共交通機関の券売機は10円単位となっており、増税分をきちんと反映させることが難しくなったのです。自動販売機も同じですね。120円の飲み物が130円に値上がりしている販売機を多く見かけますが、3%なら本来は3円か4円の値上がりで済むはずです。そこでJRやバス、私鉄各社はICカードを利用している場合の値段と、券売機で買う場合の値段が異なるという二重設定を行うことにしました。ICカードだと1円単位で徴収できるからです。

 

 さて、今回の問題。1円玉についての問題です。1円玉の発行枚数が減っていることは、これまで開智で出題されるなど、中学受験の中でも出されたことがありました。これはICカードの普及が影響しています。公共交通機関だけではなく、今ではパスモやスイカといったICカードで買い物ができるお店も増えてきているのです。

 

 今回はバングラディシュの硬貨発行を受注したという、一見「そんなこと知らないよ」と思いそうな問題でした。しかし、与えられている2つの資料をもとに答えを導き出すことができます。

 まず、1円玉の発行枚数について。3%の消費税を導入した1989年頃は1円玉の発行枚数は多くなっていますが、その後減少が続いています。そうすると造幣局の機械を動かすことも減ります。せっかく硬貨をつくることができるのにもったいないですよね。

 そして、ICカードについて。今回の消費税増税にあたっては1円玉の需要が高まったでしょうが、そもそもICカードが普及しているから1円玉の利用割合が減ってきていることを読み取ることができます。

 紙幣の印刷は日本銀行、貨幣の印刷は造幣局ということは意外と知られていませんが、バングラディシュの硬貨も請け負っていたのですね。ちょっと驚きました。しかし、知らないことでも資料を使って考えていくことで答えを出すことができるのです。そこに、消費税導入の年度という知識があればさらに充実した解答をつくることができるでしょう。

 

解答 

 1989年の消費税導入に伴い1円硬貨の製造枚数は増えたが、多くの硬貨を持ち歩きたくない人が増えたことや、運賃の安くなるICカードの普及により、近年は製造枚数が大幅に減少したので、造幣設備を有効に活用するため。(101字)