06桜蔭H26 解答解説(中学入試で培う現場思考力)
鉄道開通が地域に過疎化をもたらす理由とは?
「リニア新幹線は地域振興につながる」、確かにその可能性はあります。これまで交通網が発達していなかった場所に観光客が訪れることで経済効果も期待できるでしょうし、産業も発達するでしょう。2015年には北陸新幹線も金沢まで延伸しますし、2015年度末には北海道新幹線の部分開業も予定されています。リニア新幹線だけではなく、鉄道網も整備されつつあるのです。
新幹線だとそれほど批判を受けませんが、交通網の整備には費用対効果が見込めるのかという議論がつきまといます。たとえば、高速道路を新たに作った場合、その建設費は通行料でまかなえるのか、維持費もずっとかかっていくのだから、将来的に見て負担になるのではないか。人口減少を続ける今後の日本において、国土強靭化などといって建設を続けるのはおかしいのではないか。そのような批判が必ずといっていいほど起こるのです。
さて、今回の問題。建設費の負担とはまた異なった角度から鉄道開通による副作用を捉えようという問題です。
なぜ鉄道の整備によって過疎化が進むのでしょうか。これまで鉄道が通っていなかった場所に鉄道が敷かれるのは、嬉しいことのように思えそうです。では、問題文の中にある「地域差を広げる」ことに注目して考えていきます。
「地域差を広げる」というのは、都市と地方の差を広げると考えると分かりやすいでしょう。もともと発展している都市に人やモノがより集中し、逆に地方からは人やモノが出て行ってしまう――そう考えれば、なぜ鉄道の整備によって過疎化が進む地域があるのか、糸口が見えてくるのではないでしょうか。
鉄道が整備されると、外から人が来ることが期待できると同時に、外へ人が行きやすくなります。これまでは地域の中で暮らしていた人たちが外へ目を向けるようになります。東京や名古屋といった大都市で就職しようという人も出てくるでしょう。人口が流出してしまうのです。
また、そこまでいかなくても、鉄道が整備されれば、都市まで出かけて買い物をしようと思う人はいるでしょう。そうやって地域で買い物をせずに、少しでも大きな都市で買い物をするようになった結果、地域の店の中には経営が成り立たなくなってしまうところが出てくるはずです。こうして少しずつ地域は不便になっていき、そのことが大都市に移り住もう、大都市で仕事を見つけようと思う人を増やしていく要因になるのではないでしょうか。
熊本県の人は、九州新幹線の開通を手放しで喜べないという話を聞いたことがあります。九州新幹線が博多と鹿児島中央を結ぶことで、熊本が単なる通過駅になってしまうのではないかという懸念があったのです。そういう危機感が熊本県のアピールのために、「くまモン」というキャラクターを誕生させたのかもしれませんね。熊本県はもともと過疎化が進んでいる地域はそれほど多くありませんし、くまモンを使ってのアピールに成功しましたが、よほど上手にしないと、過疎化が進んでしまうかもしれません。
http://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/3/kumamonsougou.html(熊本県ホームページ)
新たな交通網の整備が必ずしも地域にとってプラスに働くとは限らないということを考えさせる良問でした。リニア新幹線や北陸新幹線の開業など一見明るい話題に見える事柄にも副作用や負の側面があるものです。物事を一面的に見るのではなく、いろいろな影響も考えられるようになってほしいという意図があったのかもしれません。
解答
鉄道が整備されて大都市へのアクセスが便利になると、地方からは進学や就職などに有利な都市へと人口が流出してしまうこと。(58字)