現場思考力ゼミ ―中学入試を使って現場思考力を培う―

現場思考力とは、与えられた条件や自分の持っている常識、知識を組み合わせて、何らかの推論や結論を出す力のことをいいます。中学受験の社会入試問題を使って、現場思考力の養成をはかることを目的に、2014年に双方向性を持ったブログとして運営していました。生徒の答案を添削して公開するという取り組みでした。このブログではその問題と解説の一部を保存しています。

05開智H26 解答解説(中学入試で培う現場思考力)

 リニア新幹線の建設推進の立場に立って、説得力ある説明を求めている問題

 

 リニア中央新幹線(リニア新幹線)は2014年度中に着工することになりました。東京から名古屋までを約40分で結ぶわけですから、現在の半分の時間で名古屋まで行くことができます。

 

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 実は新幹線のルートを決定するまでの間、かなりの時間がかかりました。AルートからCルートまでの3つの候補があり、調査をしてどのルートでも建設可能と分かってからルートが決まるまで5年もかかっていたのです。

 東京―名古屋にかかる時間を少しでも減らし、建設費も少なくて済むCルートがJR東海の希望であり、最終的にCルートで決定しましたが、長野県はBルートを希望していました。なぜだか分かりますか?

 「長野県を通っているから」では説明になりません。どのルートも長野県を通っています。BルートとCルートの違いはというと、まず諏訪と伊那という複数の駅を作ることができる可能性があったことがあげられます。長野県としてはできるだけ複数の駅があった方が地域振興にとって有利になるからです。また、かつては製糸業、精密機械工業で栄え、現在は電子工業がさかんな諏訪は、観光地でもあり、松本市へと向かう交通の要所でもあります。リニア新幹線が通ることによって長野県の地域振興をはかろうと思えば、Bルートが理想的だったのでしょう。もちろん、リニア新幹線建設にあたって、県内業者の仕事が増えるなど他にも理由があったのかもしれません。とにかく、長野県の利益を考えればCルートは認めたくないものだったでしょう。

 

さて、今回の問題。地中深くリニア新幹線が走ることで、東京や名古屋での乗り換えには15分ほどかかると言われています。せっかくスピードが速くても、乗り換えに時間がかかってしまっては、今の新幹線とそれほど変わらないことになってしまいますね。

これが大阪まで約1時間で走るようになれば、圧倒的に早くなったと実感できるのでしょうが、東京―名古屋間だと時間短縮効果が薄いという批判は出てくるでしょう。そういう批判があってもなお、リニア新幹線を建設するべき説得力ある意見が求められています。あなたが建設賛成、反対いずれの立場であるのかを聞いているのではありません。指定された立場に立って説得力ある説明をすることを求められています。

 

 様々な角度から回答できる問題ですが、そのうちの一つは既に書きました。テーマは「地域振興」です。内陸部のルートが新たにできることで、仕事での移動や観光での移動が便利になります。地域活性化のきっかけになるかもしれません。別の角度から考えることもできるでしょう。現在の東海道新幹線は海沿いを走る場所もあり、仮に東海地震が発生すると交通網が寸断される可能性があります。その時にリニア新幹線が開業していれば大都市間の交通網は確保されます。他にも、日本の技術を世界にアピールして、技術を売り込んでいくきっかけにすることもできるかもしれません。

 

 「これが答え」と決まっている問題ではありませんし、個人の自由な発想を求めているわけでもありません。指定された立場から説得力ある説明をするというのは、論理的な議論ができる子を求めているということでしょう。

 

 

解答例

 ビジネスや観光を通じて内陸部の地域振興につながるから。